10時に意識を失った私が目を醒ましたらお昼前になっていました。
とても信じられないことなのですが、この時点で夫に殴られた記憶は
全くなくなってしまっていたのです。
起きてみたら、隣に寝ている夫がいません。
私が咄嗟に思ったことは「しまった! 今日は会社のある土曜日か!」
ということでした。
それなのに、私は朝御飯も作らないで眠っていて
夫は、私のことを起こさないように会社に行ってしまったのだと思い
とても焦りました。
慌てて夫にショートメールを送ろうとして
全身が、息も出来ないくらいに痛むことに気付きました。
身体を起こそうと思っても、身体が動きません。
「寝違えたのかしら」と思ったけれど
そんな次元の痛み方を遥かに超えています。
私はとても不安になりました。
「会社の日なのに、気付かないで寝ていてごめんなさいね。
朝御飯も作らないで……」という主旨のメールを送りました。
そうしたら、夫からの返事が届きました。
「また記憶を無くしてるよ」と。
この頃はもう、私も自分でも記憶が混乱していることに
気が付いていた頃なので
また何か忘れちゃったのかな、と思いました。
もしかしたら、これだけ痛いということは夫にやられたんだろうか、と
何となくそんな気もしました。
でも、何をされたか覚えていないので、どうしようもありません。
そうこうする内に、夫が家に戻って来ました。
私は、ホッとして(困っている時に夫の顔を見ると、
やっぱりホッとしてしまうのです)夫に助けを求めました。
「朝起きたら、あなたはどこにもいないし、体中は痛いし
どうしていいか分からなくなっちゃった……」と。
すると夫は怒り出し、突然 私の顔をジッと見ながら
「本当は、何もかも分かっているんだろう?」と言いました。
「何のこと?」私は訊きました。
夫は「すっとぼけやがって!」「すっとぼけやがって!」と
何度も何度も言いながら、私をその場に突き倒しました。
そして「今 お前のことをまた(暴力を)やったとしても
10分も眠ったら忘れるんだろう?
都合の悪いことは、すぐに忘れるんだよな、お前は」と
怖いくらい冷静な声で私に言いました。
私は、それでも何のことだか良く分からず、ただ
「また殴られるのかなぁ」「さっきもあんなにやったのになぁ」と
無力感の中でどうすることも出来ずにいました。
体中が痛むので、逃げることも出来ません。
夫の攻撃が始まりました。
手が痛くなってしまったのでしょうか、今度は足で蹴るばかりです。
下腹、鳩尾、横腹、腰、背中、首、頭、腕、太腿……
とにかく体中です。あまりの痛みに、死んだ方が楽だと思いました。
咄嗟に、私の手が傍にあった携帯電話に伸びました。
もしもの時のために、近くの交番の電話番号を登録してあったのです。
でも、交番に掛けようとして、ためらいました。
「このままじゃ殺される」という気持ちも本当なら
「この人は私の夫。どんなことがあっても私が守らなきゃ」というのも
また、本当の気持ちなのです。
その一瞬のためらいが、夫に見破られました。
「携帯を、こっちによこせ!」夫が手を出して来ました。
私は、反射的に携帯電話を体の陰に隠すようにしてしまいました。
取られたら壊される、と思ったのです。
実は、去年の10月にも、助けを呼べないように、と
携帯電話を投げて壊されたことがあったからです。
「いや! 壊されちゃうから、いや!」私は叫びかえしました。
去年の10月に、夫が「俺が壊しちゃったから」と
新しい機種を買ってくれたのです。
夫に買ってもらったその携帯電話は
とても小さくて、可愛くて、私のお気に入りなのです。
それまで壊されるのは耐えられません。
だから、必死で携帯電話を取られないようにしたのですが
「素直に出さないと、ひどい目に遭うけど、それでもいいのか?」と
夫が怖い顔をして言うのです。
そうして、実際に蹴り付けて来ました。
今度は、頭部と、携帯を持った手が狙われました。
私は、携帯を握りしめているのに、どこに助けを求めていいか分からず
ただ泣きながら「やめて!」「やめて!」と言うしかありません。
でも、結局は力に負けて、携帯電話は取り上げられてしまいました。
夫は、後ろのバッテリーをおもむろに外すと
流し台の中に漬けてあった水の入った容器の中に
そのバッテリーを漬けてしまいました。
どうして、そういうことまでしてしまうのかなぁ、と
私は、悲しいやら情けないやらで、もう抵抗する気力もありません。
携帯電話を取り上げられたあとは、ただ黙って夫に蹴られるがまま
何も考えることも出来ず、もう叫ぶことも出来ず
眼は開いていても何も見えず、周りの音も聞こえなくなっていました。
「死ぬのかな」とぼんやり思いました。
再び夫が出て行こうとしました。
「どこにも行かないで」と止めたけれど、行ってしまいました。
私は、どんなに痛いめに遭っても
夫と離れているのが一番 苦手なのです。
どんな時も、夫に傍にいてほしいのです。
傷付いたり落ち込んだりしている時は尚更です。
「だれのせいでそんな目に遭ったか」なんてことは二の次で
夫に手を握っていてもらったり体をさすったりしていてもらわないと
痛みも消えないし、気持ちも落ち着かないのです。
夫もいつも不思議がります。
「俺がやったのに」「『出て行って』と言われるなら分かるのに」と。
でも、理屈じゃありません。
落ち込んだ時の私に必要なのは他の誰でもなく、夫なのです。
それでこの日も思わず「行かないで」と言ってしまいましたが
夫にしてみれば、たった今ボコボコにした相手の傍にいるのは
とても辛いことだったのでしょう。
夫がいなくなったあと、足を引きずり、腰を押さえながら
私は、バッグに荷物をまとめて電車に乗りました。
行き先は、夫の実家です。
夫のお父さんと、夫を8歳から育ててくれたお母さんと
2人の可愛い妹がいます。
ここに私が転がり込んでもいいものだろうか、と迷いながらも
電車はどんどん夫の実家に近付いて行きました。

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